土木建設分野の地質調査において深度数10mまでのS波速度構造を把握することは、構造物の耐震設計などにおいて大変重要である。従来この目的には、一般にボーリング孔を用いたPS検層が用いられてきた。一方、表面波(以下、レイリー波を意味する)の位相速度は主に地盤のS波速度構造を反映することから、人工的に加振して発生した表面波の位相速度を測定して、地盤のS波速度を推定する手法(表面波探査)の適用も試みられてきた。我が国でこれまで行われてきた表面波探査は、主にバイブレーターなどを用いて定常波動を励起し2つの地震計間のクロスコリレーションを計算することにより位相速度を求める方法である。
これに対して、Park et al.(1999)は重錘落下などのインパルス震源により励起された波を、測線上に展開された多数の地震計で取得し周波数領域で見かけ速度に応じて積分することにより、時間−距離の領域の観測波形を、直接周波数−位相速度の領域に変換する方法を考案した(MASW:Multi-channel Analysis of Surface Waves)。この手法は、Park et al.(1999)らが指摘するように2つの地震計データのクロスコリレーションでは分離が困難な実体波や高次モードの表面波を視覚的に分離することができるだけでなく、2つの地震計データのクロスコリレーションで問題となる空間的なエイリアジングを回避することができる点で優れた手法である。Xia et al.(1999)はこの方法を連続的に用いて二次元のS波速度断面を作成した。
この手法を用いて低周波数の領域まで精度よく位相速度を決定するためには、Park et al.(1999)が指摘するように地震計の展開長を長くする必要がある。しかし、展開長を長くすることにより、同じ展開内で速度構造が変化していてもそれを平均化してしまい、空間方向の分解能を低下させる可能性がある(林・鈴木, 2000)。空間方向の分解能を向上させるためにはなるべく短い区間で位相速度を決定することが望ましいが、速度を精度よく求めるためにはなるべく長い区間のデータを使う方が望ましく、この二つは矛盾する。そこで筆者はこの矛盾を解決する下記のような手法を考案した。